世界がもし二人の村だったら

最近ブログがあっぷるあっぷるしてるので、たまには本業にちなんだことでも書いてみます。

ええと、一応改めて言っておきますね。僕の本業は医学です。



さて、ただいま大学院にて一生懸命(たぶん)勉強に励んでいるわたくしですが、先日教科書を読み返していると面白いデータが載っていました(データは1994年のものです)。

ちなみにこの教科書ですが、日本語版も手頃な値段で、内容も専門外の人が読んでも理解できるように噛み砕いて書かれており、広く一般にオススメです。是非ぜひ読んでみてください。

面白いデータ——面白いという表現はもしかするとやや不適切かもしれないのですが——それは、全米における、黒人と白人の死因別死亡率比です。

各死因ごとに、黒人と白人で死亡率がどれくらい異なるかを比べたものですね。


例えば糖尿病を例に取ると、黒人/白人比で死亡率比は"2.4"です。これは、黒人の糖尿病による死亡率が白人のそれより2.4倍高い=黒人は白人に比べて2.4倍糖尿病で死にやすい、ということを表しています。

日本に住んでいるとなかなか実感しづらいかもわかりませんが、こういった人種別の統計は、医療を考える上では非常に重要です。社会的な点から医療にアプローチする際にももちろん重要ですし、臨床の現場でも大事な情報になります。

先ほど例に挙げた糖尿病で言えば、2.4倍という死亡率比はもしかすると黒人が白人に比べて質の高い医療を受ける機会が少ないという原因があるのかもしれません(※)。もしそうであるなら、これは社会的な医療の問題です。

あるいは、もしかすると体質的に黒人は糖尿病に罹りやすかったり、糖尿病が悪化しやすかったりするのかもわかりません(※)。もしそうであるなら、この傾向は臨床の現場でも重要なファクターになってきます(黒人の糖尿病はハイリスクと看做して、より注意深く診療するなど)。

今回は人種別のデータですが、男女別、年代別など様々な切り口でこういったデータが公開されています。そして、それぞれに医療の質を向上させていくためのヒントが隠されています。

(※:アンダーライン部はあくまでも参考のために考え方の一例として挙げた仮説で、実際にそれが正しいのかどうかは、保証いたしかねるものです)



さて、今回その人種別死因別死亡率比の表を見て興味を覚えたのは、黒人/白人比が最も高い死因黒人/白人比が最も低い死因のコントラストです。

米国における人種問題の一面があまりに鮮やかに描出されていて、色々考えさせられました。

まず、死亡率の黒人/白人比が最も高い死因。これは他殺です。

その率比は圧倒的で、6.2倍。

つまり、黒人は白人の6.2倍殺されやすい——。あまりに身も蓋もない事実ですが、しかし事実は事実。

1994年とやや古めのデータですが、実際に米国で起こっていることです。



対して、死亡率の黒人/白人比が最も低い死因はというと、先ほどの他殺と見事なまでに対照的で、今度は自殺です。

黒人/白人比で0.6なので、1 ÷ 0.6 = 約1.7。だいたい白人の方が1.7倍ほど自殺しやすいということでしょうか。

先ほどの6.2倍と比べるとやや控えめな率比ではありますが、主要な死因の中で、死亡率の黒人/白人比が最も低いものは紛れもなく自殺です。



世界がもし100人の村だったらなんて本がありましたが、さて、ここで思考実験です。

世界がもし二人の村だったら。一体何が起こるのでしょう。

とりあえず、一人が白人、もう一人が黒人であるとします。

死亡率比のデータでは「黒人は他殺されやすく、白人は自殺しやすい」という傾向が明らかになりました。

そうすると、ここから導き出される顛末はこうなります。



1.黒人が白人によって殺害される。
     ↓
2.残った白人が自殺する。
     ↓
3.そして誰もいなくなった



と、思考実験の結果はなかなか衝撃の結末を迎えてしまったわけですが、この結果を「世界の縮図を描出した、なんとも示唆に富むものであるなあ」と捉えるか「一つのデータのみを根拠にして極端な例に当てはめると、ナンセンスな結果しか出ないものだなあ」と捉えるか、はたまた「この文章を書いた有好って奴は阿呆だなあ」と捉えるか、その辺りはみなさんに委ねたいと思います。
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by cos_ary | 2010-05-01 00:07 | 雑記


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